ngVLAのアンテナ群 Credit: NRAO/AUI/NSF

Scienceサイエンス

太陽系外惑星やブラックホールに関する研究の大きな進展や、重力波の検出など、21世紀の天文学は次のステップに進みつつあります。ngVLAは、ミリ波からセンチ波帯(波長3ミリメートルから20センチメートル)までの比較的長い波長の電波を高感度・高解像度で捉えることができ、そうした新しい天文学において大きな役割を果たすことが期待されます。

私たちが住む太陽系のような「惑星系」の形成過程の探究

惑星系の形成過程のCGイメージ

1995年以降、私たち人類は、天の川銀河の星々を様々な手法を用いて観測することによって、数千個の「惑星系」を発見しています。こうした「惑星系」はどのような物質で作られ、どのようなプロセスを経て、私たちの住む太陽系のように生命を育むことができる環境を作り出すのでしょう。

誕生したばかりの「惑星系」はガスや塵でできた円盤を作ることが知られています。その円盤内を誕生したばかりの若い惑星が通過することにより、円環状の「すき間」ができます。しかし、円盤の中心付近、特に地球のような岩石惑星が生成される場所では、密集したガスや塵などの物質が電磁波をさえぎってしまうため、これまでの望遠鏡ではこうした場所の「すき間」の観測が困難でした。

一方で、ngVLAが観測する比較的長い波長の電波は、ガスや塵の密度の高い領域を透過するため、その内部を写し出すことが可能となり、そこで形成された岩石惑星が作る「すき間」の様子を描き出すことができます。「惑星系」形成の初期段階の「すき間」の存在と、その特性を精確に捉えることにより、地球のような岩石惑星の起源、惑星の多様性の理解が大きく前進するでしょう。

生命・惑星系・星の誕生の初期条件の探究

原始惑星系と星間物質のCGイメージ

138億年の宇宙の歴史において、どのように地球上に豊かな生命世界が誕生したのか。生命誕生に至る基本的な環境はどの程度普遍的であるのか。これは私たち人類の究極的な問いです。これらの問いに答えるためには、惑星系の誕生に至る各段階をくまなく探究し、多種多様な「有機物」の起源をたどることが不可欠です。

ngVLAが観測する波長帯では、星間空間における窒素の重要な存在形態の一つであるアンモニアをはじめ、さまざまな大型有機分子からの電波を検出することができます。特に、窒素は、DNAを構成する塩基やアミノ酸に含まれ、生命に深く関係しています。これらの分子を、ngVLAの高い感度と解像度を使って調べ、生命誕生にどのような化学条件が必要だったか、いいかえれば生命の「種」の探究を行います。

宇宙誕生後数十億年から現在に至る銀河内での物質循環と進化の探究

銀河の進化のCGイメージ

宇宙における星の形成は今から約100億年前の宇宙でピークを迎え、現在の宇宙まで進化してきたことが知られています。銀河が激しい星形成活動を開始するためには、その材料である冷たい分子ガスが必要です。ngVLAを使って、星の材料となる低温の分子ガスから放たれる電波を検出し、宇宙誕生の数十億年後から現在に至るまでの星形成の初期条件と、星の誕生・成長・終焉をへて放出された塵やガスが次世代の星へと引き継がれる物質の大循環の変遷を探究します。

銀河系中心領域のパルサーを使った重力理論の検証

パルサーと銀河中心のブラックホールの重力場のCGイメージ

強い磁場を持つ中性子星は、自転に伴って周期的な電磁波を放ちます。このような天体をパルサーとよびます。パルサーは極めて正確な信号を放射しますが、銀河中心の超大質量ブラックホールの重力場によって信号間隔にズレが起こると考えられています。このズレを測定することで、重力理論の検証ができます。パルサーは、天の川銀河の中心付近にたくさん存在することが予想されているにも関わらず、これまでの望遠鏡では感度不足のため10個程度しか見つかっていません。ngVLAを使って新しいパルサーをたくさん発見することにより、パルサーについての理解が深まるだけでなく、重力理論の検証や星の進化についての知見が得られることが期待されます。

ブラックホールの形成・進化とマルチメッセンジャー天文学

ブラックホールと中性子星の融合のCGイメージ

私たちの住む天の川銀河を含むほぼ全ての銀河の中心には、超大質量ブラックホールが存在することが知られています。また最近では、比較的質量の小さいブラックホールの存在も示唆されています。ブラックホールは、非常に狭い範囲に大きな質量が集中しており、光さえもその重力から逃れることができないため、どんな望遠鏡を使っても直接見ることができません。宇宙の歴史の中で、ブラックホールがどのように形成・進化してきたかを探るため、ブラックホールに落ち込むガスや放出されるガスの様子、それらが銀河の進化にどのように影響してきたのかをngVLAを使って探ります。また、ブラックホール・中性子星の合体のような宇宙の激しい現象の正確な位置をngVLAで特定し、他の観測装置で得られたデータと比較することにより、そこで起きている現象を詳しく調べることができるようになります。